目標を決めなくていい。好きなことと向き合う勉強法って?

「勉強」というと、受験勉強の記憶からか、目標を立てなきゃいけないと思いがち。この資格をとるためにはこれをやらなきゃ、と気づいたら目標が勝手に決まって、受け身な姿勢になっている場面はないでしょうか。

一方で、立てたい目標がないのに「目標を立てなければ」と思い込んで苦しくなっていたことに気づく場面もありました。そもそも、目標って立てなくてはいけないもの…?

 

そんな「目標」に対してしばられていた考え方を、軽々と解き放ってくれるひとがいました。Webエンジニアの菊池俊樹さん。菊池さんはあえて目標を決めずに、さまざまな分野の興味があることを勉強する毎日。一見バラバラに見える学んだことが、気づけば今につながってきて、自分を助けてくれたそうです。

どんな理由で、何を学ぶことを選択するのか。この問いともう一度向き合うきっかけをくれる、菊池さんの学びと人生のつながりをご紹介します。

一つの出会いから、初めて「勉強が楽しい」と思った

── 菊池さんは机に向かって自習する「勉強」を以前からお好きだったんですか?

実は、高校卒業まで全然勉強していなかったんですよ。小学生からやりはじめたエレキギターにハマって、朝の会で弾いていました(笑)。そのまま中学でも高校でもバンド活動を続けて、高校生になってからは特に洋楽をたくさん聴いていましたね。プログレッシブロックやハードロック、ヘビーメタルとか大好きで、月に20枚くらいレンタルして。そのままプロを目指すつもりで音楽をやり続けた結果、高3のとき数学が0点でした。

── そこから「勉強っておもしろい」と思えるようになった転機って、どこだったんでしょう。

一年間浪人しようと決めて入った予備校で、初めて勉強が楽しいって思えたんですよ。それまで学校の授業をおもしろいと思ったことがなかったんですけど、予備校の先生の授業を受けたときに心の底から「あ、勉強って楽しい」って。

一番大きく影響を受けたのは、世界史の先生でした。世界史で登場した場所や遺跡に実際に足を運んで、そこで見たものを話してくれるので、話にリアリティーがあったんです。行ったときの写真を見せてもらったり、トラブルのエピソードを聞かせてもらったり。

── 教科書だけの学びじゃなくて、リアルの体験を結びつけて語ってくれたからこそのおもしろさだったんですね。

そうですね。先生の話を聞いているのが本当に楽しかったのと、勉強に対して本気になれば先生たちのように人生やり直せるんだなと思って、勉強を頑張るようになりましたたね。

好奇心から、ハマれる仕事に出会えた

── 菊池さんが大学受験後も勉強を続けた理由ってなんだったんでしょう?

好奇心ですね。一冊の本を読むと数珠つなぎでどんどん他の本も読みたくなるんですよ。予備校で歴史にハマったので、大学で歴史学科に進んで。ヨーロッパの歴史を研究しながら、歴史に心理学とか経済学とか別の分野を絡めて考えるのが好きでした。

── 予備校で受けた影響が薄まらずに、大学入学してから今まで勉強を続けていらっしゃるってすごい…! 高校までギターにハマっていたのと同じ熱量で、勉強に没頭されたんですね。

そうですね。新卒の頃から今まで、仕事がウェブエンジニアなんですけど、この仕事を選んだ理由の一つも「ハマった」からですね。

── どんな経緯で今のお仕事と出会われたんでしょう?

大学2年の頃にビジネス書をよく読んでいたからか、学生のうちに会社に入ってみようかなと思って、スマホのアプリを売っているスタートアップで働くことにしました。やりたいことがわからなかったので、とりあえず一番厳しそうな営業をやってみようって。そしたら営業にもハマりました(笑)。インターンなんですけど、ガンガン働いていましたね。

おもしろかったのは、本で読んだ知識を実践できること。学んで実際にやってみて、「あーだめだった」となったら、また違うことを学んで実践してみる。

一方で、サービスもデザインももうちょっとよくできそうなのに、と思いながらガンガン売っている自分にジレンマを抱えていました。その葛藤を解消しようと思って、パソコンの知識なんて全然なかったんですけど、社員の人に「このアプリってどうやってつくってるんですか?」って聞いてみたんです。

そこからプログラミングの勉強をはじめて。一時期は大学と並行してプログラミングの専門学校にも通って、新卒でウェブエンジニアとして入社しました。

── 新卒で入社した会社でのお仕事と今の会社でのお仕事とでは、領域が違うんですよね。

入社した2年後にジョブチェンジしました。画面を構築するフロントエンドから、もっと裏側を担うサーバー側に分野を変えてみたんです。

フロントエンドも難しい部分があるんですけど、コンピューターの表面をみるのが基本。僕はもっと深くてわからないくらいブラックボックス化している部分を見たいって思って。見たことがないものを見てみたくて、新卒入社した会社を退職して8ヶ月くらいサーバーのことを勉強して、今は希望どおりの仕事に就けています。

── 社会人になってからはどんな勉強をされていますか?

仕事に関係することもしないことも、興味のおもむくままに勉強していますね。前職時代に仕事がハードで体調を崩してしまって、健康関連を勉強してみたことがきっかけで、最近だと栄養学の本を読んでいます。断食にも行ってきたんですが、すごくハードでした(笑)。他にも筋トレをするなら筋肉の勉強をして、興味を持ったらまずは本を読んでみるようにしていますね。

目標があるから勉強しているというよりは、自分がそのとき興味のあるものをどんどん吸収しています。楽しいからやっている。常に何かにハマって勉強して、そこからつながってきた次の分野を勉強して。

今まではインプットしてもあまりアウトプットしてこなかったんですけど、初めて勉強会もやってみたんです。本当に来てくれるのかなって緊張で気持ち悪くなりました(笑)。でもそのときの告知の文章にかつて勉強した心理学のノウハウをいかせて、たくさんの方に来ていただけたんです。今まで勉強してきたことが繋がってきた感覚がありました。

いつもまっさらな自分でいたいから

── 菊池さんのお話をうかがっていると、勉強したことを何かに活かそうとしなくても、どこかの場面で自然に自分を助けてくるんだなって思えてきますね。

自分が楽しいと思っていることをやっていると、どこかでつながってきますね。

大学で勉強した歴史も、今にすごく活きています。歴史を知らなければ、現代の見かたでしか物事をとらえれられない。でも歴史を勉強すれば過去の人の考え方を知れて、先生が増えるんですよね。エンジニアが歴史を学んだらコードを書けるか? っていうと書けないですけど、組織の仕組みや自分の生き方を考える上ですごく役立っています。

勉強すればするほど自分が物事を考えられる角度が増えるし、常識を疑えるようになる。いわゆる教養、リベラルアーツと言われるものが、人生を楽しませてくれています。旅先に行ったときに知識があるのとないのじゃ、あるほうがやっぱり断然楽しいなって。

── 旅行もお好きなんですか?

知らない世界に飛び込むのがすごく楽しいので、この前はマレーシアとスリランカに行ってきました。今まで勉強してきた歴史や宗教や文化と目の前の景色がつながるのがおもしろくて。旅先で人と出会って、日本以外の常識にも触れられる。視点が一つ増えるんです。

僕はよく詐欺に遭うんですよ。スリランカで英語で話しかけられてついていったら、タクシーを運転しながら仲間を呼び始めて、まずいと思ってタクシー飛び降りたりとか(笑)。そういうのばっかりなんですけど、こういうハプニングも旅の醍醐味ですよね。

── これからやっていきたいと思っていることはありますか?

海外で働いてみたいと思っているんです。大人になると一日が短くなるって言うじゃないですか。それって新しい経験をして新しい刺激を受けていないからそうなるらしいんですよ。じゃあ、いつも子どもみたいにまっさらな自分でありたいなと思って、どんどん新天地に行こうと考えています。

旅も続けていきたいですね。怖いところにどんどん突っ込んでいくと新しい世界が見えるって思っているので、インドとか行きたいです。自分がつい逃げちゃうって知ってるから、最後は「行っちゃえ!」って先に航空券を買っちゃうんです。で、「逃げられない…」って思いながら飛ぶ(笑)。辛いこともありますけど、行ってみると「あのとき決めてよかったな」っていつも思います。

普通に生活していたら心がさびていっちゃいそうだから、ずっと好奇心を持ち続けていたい。本で学ぶだけじゃなくて、どんどん学んだ内容を自分の目で見て確かめて、新しい人に出会い続けていきたいです。そしてその経験を、熱意を持って人に語れる自分でありたいですね。理論だけじゃなくて実践ベースで、どんどん足を動かしていきたいと思っています。

取材後記

菊池さんのお話を聞いていたら、自分の人生につながらない分野って、もしかしたらないのでは…?と思えてきました。だからこそ、目標を設定することが自分に向いていたらそれでいいし、向いていなかったら、無理に目標を立てなくてもいいのかもしれない、とも。

「こんな人生を歩みたい」という目的さえ忘れなければ、勉強してきたことが自分をありたい姿に近づけてくれる。菊池さんを見ていると、そう勇気づけられるように思います。

菊池さんの「こんな人生を歩みたい」は、「いつも子どもみたいにまっさらな自分でありたい」という思いにありました。あなたは、どんな人生を歩むために、どんなことを学んでいきたいでしょうか。

このインタビューが、学びたいものが一つでも見つかるヒントになればうれしい限りです。

 
 

菊池俊樹さん
岩手県出身。現在はWebエンジニアとして会社勤め。ギターと読書が好き。最近ハマっていることは健康法と、クレジットカードの仕組みに興味を持ったことがきっかけではじめた会計・ファイナンスの勉強。将来は海外で働きたいと思っている。

 

文・写真/菊池百合子(@kikuchi410
編集/佐藤芽生・堀川美紀

2018-06-16 | Posted in InterviewComments Closed 

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