患者さんに寄り添える医療ソーシャルワーカーを目指して、まっさらな自分で現場に挑む

ずっと学んできたことを、実践する場に出るとしたら。

最初の一歩目に、あなたは何をしますか?

自分にとって未知の状況に飛び込むからこそ、じっくり準備したくなりますよね。

その一方で、じっくり重ねた準備に引っ張られて、気づけば準備の枠から出ないように行動をおさえてしまう面はないでしょうか。

今回お話をうかがったのは、医療ソーシャルワーカー1年生として病院に勤める赤嶺ちひろさん。

実践の場での学びを自分が無意識に制限してしまわないように、これまで重ねてきた準備をあえて解き放ってみる

まっさらな自分で挑んでみるからこそ、その場での学びを必死に吸収できる場面もある

実践の場での「学び」についてそう語り、準備しすぎないことの意味を教えていただいたように思います。

 

挑戦のための準備をしているけれど、挑戦の一歩目を踏み出せない。いつもついつい準備しすぎてしまう。

赤嶺さんのお話が、そんなもやもやを解決するヒントをくれるはずです。

目指すことを決めてから、勉強が楽しくなった

── 赤嶺さんは現在どんなお仕事をされているんですか?

病院で「医療ソーシャルワーカー」をしています。入院患者さんの療養環境が少しでも良くなるように、患者さんとご家族をサポートする仕事です。

── なかなか聞きなれないお仕事ですが、どんなきっかけで目指されたのでしょう?

中学3年生の頃に父親が病気になったんです。そのときに学校の先生にすごく支えられて。何気なく「大丈夫?」って聞いてくれたり、一緒にいてくれたり。先生が抱きしめてくれたこともありました。それが原体験になって、患者さんや患者さんのご家族をこんどは私が支える立場になりたいなと思ったことがきっかけです。

実際に仕事として「医療ソーシャルワーカー」っていう職業があることを知ったのが、短大に入ってから。もともと興味があった保育の分野を勉強していたのですが、ソーシャルワーカーの仕事を知ってから「やっぱり患者さんを支える立場になりたい」と思って、大学に編入しました。大学での勉強には保育の分野も含まれているので、短大で学んだことも自分を助けてくれましたね。

── 「これがやりたい」と思った分野に飛び込んでみてから、勉強に対するイメージは変わりましたか?

変わりました。高校生の頃は部活ばかりで勉強の時間を確保できなくて、あっという間に学校の勉強についていけなくなって。勉強が大嫌いだったんです。短大の受験でもAO入試を使ったので、高校生からはほとんど勉強していませんでしたね。

でも大学に入って自分が行きたい分野を学び始めてからは、久しぶりに勉強が楽しくなりました。法律とか苦手な分野もあったんですが、「医療ソーシャルワーカーになりたい」って気持ちを強く持てていたので、ブレずに勉強を頑張れるようになったなって思います。

座学で吸収したことを実践して、学びを加速させる

── 「このために勉強を頑張るんだ!」って目指すことを決めてから、勉強が楽しくなったんですね。他に勉強が楽しくなった理由ってありますか?

座学以外に実践の機会があったことが大きいですね。授業以外にも有志の会に入って認知症の講座を地域でやってみたりとか、学童保育に行って子ども向けの講座を開いたりとか。

学校で勉強していることが実習につながって「こういうことなんだ」って落とし込めたり、逆に現場に出たことで「学校で学んだことと実際はちょっと違うかも」って知れるいい機会になっていました。現場で吸収できることがすごく多くて、楽しかったです。

── インプットしながらアウトプットできたことで、学びが深まったんですね。

そうですね。やっぱりコミュニケーションが重要な仕事なので、相手の言葉に耳を傾けることで、学びが自分のものになっていく感覚がありました。実践の場に出たから自分の伝え方、話の聞き方もすごく重要だなと実感できて、今の仕事でもいかせていますね。

── 実習に臨むときはどんな気持ちなんですか?

いつもあまり準備をしないようにしているんですよ。行ってみて、わからなかったらその場で対応してみようって思って現場に臨んでいます。最初は緊張しましたけど、ひとが相手の仕事だから、現場に出てみてわからないことはきっとある、って思うようになりました。

前もって知識で固めてから現場に行ってしまうと、実習で得られた知識を素直に受け入れられない気がして。できるだけまっさらな自分で臨んでいます。

自分を知ることを楽しむのが勉強

──  4月から実際にお仕事が始まってみて、それこそ大学で学んだことをいったん「まっさら」にしなきゃいけない場面もあると思うんですけど、今は何に力を入れていますか?

自分のことを知ろうとしています。それぞれ性格の異なる患者さんを自分が受け止めるためには、まずは自分で自分を受け止められるようになろうと思って。自分を知って受け止めた上で、患者さんのことも受け止められるようになって、その上での支援なのかなって。

医療ソーシャルワーカーって、患者さんだけでなく病院の中でさまざまな分野の専門家と連携して仕事を進めていくので、そのコミュニケーションも重要ですね。患者さんやそのご家族に対して、できることはなんでもしたい気持ちはあるのですが、他の職種のひとたちと協力するためにも自分がソーシャルワーカーとしてすべきところはどこまでか、線引きが……難しいなって感じます。

最近は、上司から渡してもらった自分のことを深く知れる演習問題に取り組んでいます。同期と一緒にやってみると倫理観や価値観がかなり違っていて、その違いをとおして自分のことを客観的に見られるので気づきがいっぱいありますね。

──  そうやってコミュニケーションをとること自体を学びにしていらっしゃるように感じました。これからやっていきたいことはありますか?

人工呼吸器をつけていて筋肉が動かなくなってしまう病気の患者さんとは、文字盤を使って会話をするんですよ。相手の視線に合わせて一文字ずつ探って、それをつなげて。これは就職してから始めたのでまだ全然できないのですが、早く慣れて誰とでも会話できるようになりたいですね。

──  目指すことを決めて、まっすぐな自分で相手と対すること。そこでうまれるやりとりを楽しむこと。それが赤嶺さんにとっての「学び」なんですね。

 

赤嶺ちひろさん
沖縄県出身。社会福祉の立場から患者さんやそのご家族を支える「医療ソーシャルワーカー」として病院で勤務している社会人一年生。幼少期から野球観戦が好きで、高校時代に部活で力を入れたのはソフトボール。他に書道を長く続けていた。大学から東京に出ているが、将来は沖縄に戻りたいと思っている。

 

文/菊池百合子
写真/鹿取牧子
編集/佐藤芽生・堀川美紀

2018-08-30 | Posted in InterviewComments Closed 

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