歩みたい人生を考えるために、「好き」に立ち返る|「灯台もと暮らし」鳥井弘文さん×「勉強カフェ」山村宙史

鳥井弘文 山村宙史
「暮らし」、そして「学び」。
どんな暮らしや学びをしていきたいかを考えるには、その先に「どんな自分でありたいか」を描くことが必要。

とはいえ、実際に人生の目的を自分が考えられているかというと、首をかしげてしまいます。現実を前にすると、心がかすかに叫んでいた「こんな自分でありたい」という声すら、いつしかかき消されてしまうことも…。

会社で資格を取るように言われた「勉強」。日々の家事と雑務に追われる「生活」。それらを前にしたとき、「どんな自分でありたいか」を考えるなんて結局は理想、とあきらめてしまう場面があるのではないでしょうか。

 

今回の対談は、これからの暮らしを考えるウェブメディア「灯台もと暮らし」を運営する株式会社Wasei代表取締役・鳥井弘文さんと、株式会社ブックマークス代表取締役・山村宙史の二人。

同じ北海道函館市出身の起業家で、鳥井さんは「暮らし」、山村は「学び」をテーマにして会社を経営しています。事業をとおして社会に届けているのは「どんな未来を描いていきたいか」を考えるきっかけ。

そんな二人に聞きたかったのは、「どうありたいか」と向き合うにはどうすればいいですか? という問いでした。

「どうありたいか」を問いかける意味。あなただけの「学び」「暮らし」を考える前に。

「どうありたいか」と向き合う痛みをどう乗り越えればいいのか。そのヒント、一緒に探してみませんか?

「どうありたいか」がわからなくて勉強するのをやめた

山村 はじめましてですね。

鳥井 今日はよろしくお願いします。

山村 鳥井さんは、暮らしについて考えるウェブメディアを運営されているんですよね。

鳥井 はい。「灯台もと暮らし」というメディアで、これからの暮らしを考えるために自分らしい生き方をされている方にインタビューしています。

山村 鳥井さんがメディアのテーマである「暮らし」をどう捉えていらっしゃるか、すごく興味があります。

鳥井 僕らは「生活」と「暮らし」を違うものと考えています。営んでいれば勝手に「生活」になっていきますけど、「暮らし」はどちらかというとありたい姿があって、そこに向かっているイメージがあるんです。

どうしても答えがない世の中になっている今、いい大学に入っていい会社に就職してマンションを買って、っていうこれまで描かれてきたイメージの先が本当に幸せなの?っていう問いを突きつけられていると思っています。もちろん僕らもその例外ではなく、ちゃんと暮らしについて考えるきっかけがほしかった。自分たちの問いからはじまったメディアです。

山村 僕は「勉強カフェ」という大人のための勉強場所を運営していて、最初に考えたのが「学び」をどう定義するか。僕はその先に目指すものがある上での手段が「学び」だと考えているのですが、おもしろいなと思ったのが、「暮らし」も「学び」も同じだなって。どちらも、ありたい姿みたいなものに向かっていく過程なんですね。

山村宙史

山村 ここから、鳥井さんのこれまでの学びを聞いてみたいんですけど、鳥井さんはこれまで「学び」への考え方が変わった経験ってありますか?

鳥井 大学で法学部に在籍していたので、司法試験を受験するためにダブルスクールしていました。でも最終的には、法律の道をあきらめたんです。学んでいるうちに、何の役に立つのか自分の中で明確じゃなくなってしまって。

漠然と学んでも継続できないんですよね。どんな目的を持って自分の人生を歩んでいこうとするのか、原点から問いただす必要性を感じた経験でした。

山村 まさに「勉強カフェ」でも、何のために勉強しているのか、すごく迷っている方もいらっしゃるように感じます。TOEICの点数を上げたい、この資格を取りたい。じゃあ何のため?っていうところを見出しづらくなっているみたいで。

鳥井弘文

鳥井 もう一つ気がついたのが、得意な人が得意なことをやればいいんだっていうことなんです。全部自分がやるんじゃなくて。

全部自分が勉強しなきゃいけないって思っている人が多いと感じるんですけど。そもそもそういうスキルって、本当にみんなが身につけなきゃいけないものなのかなって。

山村 好きじゃないことなら、勉強しなくてもいいのでは? と。

鳥井 逆に、本当に好きなものであればいくらでも娯楽として努力できるんですよね。

「仕事が忙しくてなかなか勉強する時間がとれない…!」って言っている人がいますけど、それは仕事後でも取り組みたいと思えるほど好きな分野じゃないからでは? と考えています。TOEICとか法律の勉強がよっぽど好きじゃなければ、仕事でクッタクタになった後にそこからさらに嫌なことをやるなんてできないなって僕は思っちゃうんですよ(笑)。

「好き」の延長線上が、今の仕事になっていた

山村 鳥井さんって、ご自分がインプットしたことを毎日アウトプットされているじゃないですか。「隠居系男子」とかまさに。一方で、大学生の頃はインプット中心の勉強だったと思うんですよ。そういう学び方が変化したきっかけって何かあったんですか?

鳥井弘文

鳥井 アウトプットするようになったきっかけは、Twitterですね。僕が大学3年生くらいでTwitterが盛り上がってきたときに、すごく言われていたことがあって。「情報を出す人に情報が集まってくる」っていうことなんですけど、当時の僕にとっては衝撃的だったんです。

じゃあ自分でも大学生だけど真似事をしてみようと思って、意識的に自分を変化させてみました。佐々木俊尚さんのように毎朝Twitterでキュレーション活動をしてみたことも。そうしていたら自分の中に知識がたまって、気づいたら自分なりのアウトプットができるようになっていましたね。

山村宙史

山村 じゃあ鳥井さんにとって、ご自分の「好き」の延長線上に今のブログがあり発信があるのかもしれないですよね。

僕も「勉強カフェ」の始まりは、大好きなイタリアでした。大学生の頃にイタリアでよくひとり旅をしていたんですけど、電車が1日に1本しかないようなところをまわって。チェーン店じゃないのに、どんなに小さな町にも村にもあったのが「バール」。

バールには、近くに住む人たちがいつも集まっているんです。朝行って軽くコーヒーを飲んで、お昼もそこで食べて、夜もまたバールに寄って。一緒にサッカーを見たり喧嘩したり。

そういうローカルのつながりを目の当たりにした時に、すごくカルチャーショックを受けましたね。日本にもそういう場所をつくりたいなって思ったことが、勉強カフェをつくる原体験になっています。

腹を割った対話が、「好き」に立ち返るきっかけに

鳥井 そういう「好き」を見つけられないっていう声も聞きますけど、本当はみんな何かあるはずなんですよ。幼い頃に夢中になっていたことや時間を忘れて没頭していたこと。

でも成長するにつれて、「決められたレールに乗らなきゃ」っていう意識ゆえか、そういう記憶に蓋をしてしまう。だから自分の「好き」に立ち返るきっかけと時間さえあれば、「そういえばこれ好きだったかもしれない」っていう気づきが出てくると思うんです。

山村 そうですね。課題提起を受けて自分なりに考える時間と場を確保しづらい社会人の方が多いんだろうなと感じています。

鳥井弘文 山村宙史

鳥井 僕は4月から「Wasei salon」という招待制のオンラインサロンをはじめてみました。20代を中心に21名に集まってもらって、お互いに応援し合いながら切磋琢磨できるような空間を目指しています。

驚いたのが、初対面だったメンバーどうしがすでに腹を割った議論をできていること。誰かが真摯な気持ちを書き込むと、誰かしらの真摯な答えが必ず返ってくるんです。僕が介在しなくてもどんどん企画のアイデアが集まって、みんなで協力して進んでいく。

一例ですが、自分の「好き」に立ち返って自分のやりたいことを存分に妄想して、どんな目的を持って生きていくのかを考える時間と空間が、求められているように思いますね。

山村 自分が本当に好きなことって、一人ですごく時間をかけて見つかるわけじゃないですよね。それよりも対話が大きいのかなって。勉強カフェも、次のステップとして「好き」に立ち返れる場所になれたらおもしろいなって考えています。

対談を終えて

「暮らし」や「学び」と向き合うには、その先に「どんな自分でありたいか」を描くことが必要。じゃあ、「どうありたいか」と向き合うにはどうすればいいの?

そんな問いからスタートしたこの対談をとおして思ったことは、どうありたいかを考えるための一歩目が「好き」に立ち返ることなのではないか、ということ。だって、嫌いなことをしている自分よりも好きなことをしている自分のほうが、ありたい自分の姿に近いはずだから。

これをしていると心がわくわくすると感じること。まずは、忘れかけてしまった「好き」へのときめきを取り戻してみようと思います。何が得意なのか、っていう「できるできない」の話とか、今日も仕事疲れたっていう愚痴よりも、何を好きなのかを話しているほうが、誰よりも私の気持ちが明るくなるはずだから。

安心できる場所で、腹を割って話せる友だちと好きなものについて思いっきり話してみませんか? あなたらしく生きる一歩目になってくれるのかもしれません。

 

 

鳥井弘文(とりい・ひろふみ)さん
株式会社Wasei代表取締役。北海道函館市生まれ。慶應義塾大学法学部卒。新しい時代の生き方やライフスタイルを提案するブログ「隠居系男子」を運営開始。半年で月間25万PVを達成し、現在はBLOGOSとFashionsnap.comにも転載中。主要事業として2015年1月より、これからの暮らしを考えるウェブメディア「灯台もと暮らし」を運営。

 

山村宙史(やまむら・ひろし)
株式会社ブックマークス代表取締役。北海道函館市生まれ。2008年に起業し、「学びを通じて幸せになる大人を増やす」というミッションの下、大人が思いきり勉強できる会員制のコミュニティ「勉強カフェ」を開業。現在全国に25店舗を展開し、自分の人生を生きるための「勉強」の考え方を広めている。

 

■ 関連
・鳥井さんのブログ「隠居系男子」で、この対談のために書いてくださった記事「【メモ公開】僕にとってこれからの「学び」とは?」を合わせて読んでいただくのがおすすめです。

 

文・写真/菊池百合子(@kikuchi410
編集/佐藤芽生・堀川美紀

2018-06-16 | Posted in SpecialComments Closed 

関連記事